グッドイヤーウェルト製法で作られる靴は、200以上もの工程を経て、熟練した職人の手によって丹念に仕上げられます。製造には約8週間を要し、一足一足に込められる技術と時間が、その品質を際立たせます。この製法は、何世紀にもわたって受け継がれてきた伝統的な手仕事に基づいており、靴の強度・耐久性・履き心地を飛躍的に高めます。そのため、グッドイヤーウェルト製法の靴は、長年愛用するほどに足に馴染み、自分だけの一足へと育っていくのです。製造工程は複数の専門部門に分かれ、それぞれの職人が卓越した技術と経験を活かして仕上げていきます。なかでも、繊細な手作業が求められる工程の多くは、一朝一夕で習得できるものではありません。卓越した手と目の協応力を磨き上げるには、何年、時には一生をかけて技術を研ぎ澄ませる必要があるのです。時を超えて受け継がれる技と、職人の誇りが詰まった一足。その価値は、履くほどに実感していただけるはずです。
デザインやスタイルがマネージング・ディレクターによって決定されると、そのビジョンを形にするために、パターン・カッターとの綿密な話し合いが始まります。パターン・カッティングは、靴作りの最初のデザインと開発の要となる工程です。この段階での精度が、最終的な仕上がりを大きく左右します。熟練したパターン・カッターたちは、その重要性を深く理解しており、こう語ります。 「パターンが私たちのパターン・ルームを出るときに完璧でなければ、靴が私たちの工場を出るときにも完璧ではありません。」この言葉が示すように、細部へのこだわりが、履く人の足にしっくりと馴染む美しいシルエットと快適な履き心地を生み出します。職人の技術と情熱が込められた靴は、デザインの段階からすでに完成への道を歩み始めているのです。
ヨーロッパ産の上質なカーフ、グレイン、スエードが並ぶレザーショップ。そこでは、経験豊かなクリッカーたちがナイフを手に、厳選された革に向き合います。しかし、その手に握られているのは、ただのナイフではありません。クリッカーのナイフは、職人の技と感覚が詰まった特別な道具。一枚一枚の革の質感、繊維の流れ、わずかな傷やシワまで見極め、最適な部分を正確に裁断するための相棒です。この作業には長年の経験と鋭い洞察力が求められ、わずかなミスも許されません。職人の手によって選び抜かれ、丹念にカットされた革は、やがて唯一無二の靴へと生まれ変わる。そこには、機械には決して真似できない、伝統の技とクラフトマンシップが息づいています。
クロージング・ルームには100人以上の熟練スタッフが集い、工場内で最も多くの工程がここで行われています。この部署での作業は、一つひとつが細やかな技術と高度な集中力を要します。針と糸を巧みに操る手仕事は、まさに職人の熟練の技。ステッチの一本一本に精密さが求められ、わずかなズレも許されません。しかし、この仕事に必要なのは技術だけではありません。靴の完成までには、何時間にも及ぶ繊細な作業が続き、そこには根気と忍耐も不可欠です。熟練の職人たちの手によって、美しく精巧なアッパーが形作られ、やがて一足の靴へと仕上げられていきます。大量生産では決して生み出せない、手仕事ならではの美しさ。クロージング・ルームは、靴作りの伝統と革新が交差する、まさに職人の魂が宿る場所なのです。
靴作りにおいての「PREPARATION "準備"」とは、アッパーだけでなく、すべての部品を集め、整えることを意味します。クロケット&ジョーンズでは、ヒール、インソール、ソールのカッティングをはじめ、多くの重要なパーツを社内で生産。これにより、一貫した品質と精度を維持しています。特に、ヒール部門とソール部門は、それぞれが独立した小さな工房のような存在。熟練の職人たちが、隣接する製造部門へ最良の素材を供給するために、日々精力的に作業を進めています。靴の履き心地や耐久性を支えるこれらの部品は、決して表に出ることはありません。しかし、一足の靴が完成するまでには、こうした職人たちのこだわりと努力が欠かせないのです。目には見えない部分にこそ、真のクラフトマンシップが息づいています。
クロケット&ジョーンズでは、靴の形を整える工程を「ラスティング」と呼びます。これは、アッパーをラスト(木型)に引き伸ばし、美しいフォルムを作り上げる重要なプロセスです。ラストこそが、靴のフィット感やシルエットを決定づける、靴職人の核心とも言える存在。各ブランドが独自に設計し、何世代にもわたり磨き上げてきたラストは、まさに門外不出の企業秘密でもあります。クロケット&ジョーンズは、その伝統を受け継ぎながらも、時代に合わせた新しいラストの開発を続けています。伝統と革新が交差するなかで生み出されるラストは、快適な履き心地と洗練されたスタイルを両立し、長く愛される一足へと昇華されていくのです。
ここでは、靴作りの歴史を支えてきた「グッドイヤーウェルト」ミシンを見ることができます。クロケット&ジョーンズは、1910年頃、大西洋を越えたこの地で最新のウェルトミシンを導入した最初の靴工場のひとつでした。これにより、同社は伝統的なハンドメイドの技術を維持しながらも、効率的な生産体制を確立。結果として、1日あたりの生産量を600足にまで拡大することに成功しました。長い歴史の中で培われた職人技と最先端技術の融合。クロケット&ジョーンズの靴には、その両方が息づいています。
フィニッシング・ルームは、クロケット&ジョーンズの靴作りにおいて、まさに職人技が全開となる最終工程の舞台。ここでは、ソールのクリーニング、準備、仕上げが行われ、顧客が求める最高品質の美しさと機能性が完成します。この工程では、一つのミスが大きな影響を及ぼすため、細部にまで神経を研ぎ澄ませながら作業が進められます。磨き上げられたソールの輝き、精緻なエッジの仕上げ、そして履き心地を決定づける最終調整──すべてが職人の手による繊細な技術によって完成されます。クロケット&ジョーンズの靴が特別な存在である理由は、こうした見えない部分への徹底したこだわりにあるのです。
シューズ・ルームは、クロケット&ジョーンズ工場の最終部門。ここでは、完成したすべての靴とブーツが最終チェックを受け、細部に至るまで仕上げが施されます。職人の手によって丁寧に磨かれ、細部の検査を経て、最後にシューレースが通される。この一連の作業は、ただの確認作業ではなく、クロケット&ジョーンズの品質基準を満たすための重要な工程です。完璧な状態で箱に収められた靴は、長い時間と職人技の結晶。こうして、一足一足が誇りとともに送り出され、世界中の顧客のもとへと旅立っていきます。