クロケット&ジョーンズ(以下、C&J)では「メインコレクション」、「ハンドグレードコレクション」とふたつの製品ラインがあります。「メインコレクション」はエレガントなドレスシューズからカントリーシューズやブーツ、ルームスリッパ、そしてトレンドも取り入れた新しいデザインまで幅広いラインナップが揃います。ソールも数種類のレザーやラバー製があり、アッパーの素材はカーフ、スエードからコードバンやカントリーグレイン、ワックスタイプなどバリエーションは豊かです。定番かつ代表モデルとしてよく知られる「キャベンディシュ」や「ボストン」、「モールトン」、「コノート」などは「メインコレクション」のアイテムです。対して、「ハンドグレードコレクション」では伝統を重んじたクラシックなスタイルが揃います(具体的なラインナップについては【後編】にてご紹介します)。トレンドよりも伝統を守り続け、より洗練された上質さを加味することを重視しています。
1997年、ハンドグレードコレクションはロンドンのジャーミンストリートに最初のC&J旗艦店がオープンしたのを機に販売が開始されました。1879年よりノーザンプトンの地で靴の製造を始めたC&Jは、英国の歴史と共に高品質なグッドイヤーウエルト製法の靴作りを取り組み続けることで確かな製造技術を培ってきました。そして1980年代には、高級靴ブランド【ジョン・ロブ】と提携し、大成功を収めたジョン・ロブ最初の既成靴コレクションの製造に携わりました。これにより、さらなるトップグレードなスキルが確立され、その後に立ち上げるハンドグレードコレクションの基盤へと繋がります。
ハンドグレードコレクションはC&Jの靴作りにおける最高水準の技術を体現したコレクションです。その全てがノーザンプトンの自社工場で製造されており、最長10週間にも及ぶ工程を経て、ハンドメイドによるハイクオリティな仕上げが施されています。足の自然な輪郭に沿わせてシェイプさせた抜群のフィット感を持つコレクション専用木型を採用し、アッパー、ライニング、ソールの全てにおいてメインコレクションよりハイランクな素材が採用されています。

アッパー素材は最上級カーフ
ヨーロッパ産の最高級のカーフとカーフスエードを使用。しなやかな柔らかさはまるで手袋のような快適な履き心地です。表面がよりキメの細かな皮革を選別し上質なアニリン染料で仕上げています。仕上げた靴を徹底的に手作業で磨くことで、深みのある色合いと美しい艶が生まれます。この仕上げ作業はより時間がかかる工程のひとつです。(左:ブラックカーフ 右:ダークブラウンアンティークカーフ)

オークバークレザーソール
ハンドグレードコレクションのレザーソールには「オークバークソール」が採用されています。最も伝統的な方法で天然の樹皮のエキスを使用し、ゆっくりと鞣された革から作り出されるソールは耐久性が高く、優れた快適性と柔軟性を持ちます。そしてアウトソールの縫い目が隠されたヒドゥンチャネルで仕上げられているのも特徴のひとつで、繊細な技術を要する複雑な工程によるものです。アッパーがブラックの場合は中央部を黒く塗布した半カラス仕上げです。これによりフォーマルな趣を深めています。(左:ハンドグレードコレクション 右:メインコレクション)

練りコルクの充填量
グッドイヤーウエルト製法では重要な工程、ソールの内部に練りコルクを充填する過程でも、もうひとつ手間が加えられています。ハンドグレードコレクションではメインコレクションよりもさらに広い範囲(つま先から踵の手前)まで練りコルクが塗り込まれます。わずかな差ですが、これが足馴染み、履き心地の良さに繋がります。

フルソック仕上げ
靴の良さは外見だけでは決まりません。内側のライニング素材には吸収性、放出性に優れるしなやかなカーフレザーを使用することで靴の中を快適に保ちます。色付けされていないナチュラルカーフの場合はさらに効果的です。インソールは踵から爪先までをカバーするフルソック仕上げになっています。メインコレクションでは踵から半分までのハーフソック仕上げです。(左:ハンドグレードコレクション 右:メインコレクション)

伝統を重んじた刻印
全てのハンドグレードコレクションのインソールには1930年代のブランドロゴが刻印されています。クラシックなフォントはハンドグレードコレクションをひとめで見分けるポイントにもなります。

Gentleman’s Corner
ヒールの内側の角を斜めに削り取った「紳士のコーナー」と呼ばれる仕様。古い時代に、かがんだり、足を曲げた時にヒールがスラックスに引っかかるのを抑えるために考えられた工夫です。現在ではあまり必要性がないのかもしれませんが、歴史ある紳士靴のこだわりを垣間見ることができます。これもハンドグレードコレクションならではの仕様です。

コレクション専用の木型(ラスト)
足の自然な輪郭に沿わせて開発された非対称な木型によって、優れたフィット感を実現しています。ハンドグレードコレクションで採用されるラストはすべて、ハンドグレードコレクション固有のものになります。例えば、メインコレクションの仕様でハンドグレードコレクションのラストが使われることはありません。

シューボックス
靴を収めるボックスもメインコレクションのグリーンカラーに対して、ハンドグレードコレクションではネイビーカラーが採用されています。

ここまで、ハンドグレードコレクションのクオリティの魅力についてお伝えしましたが、決してメインコレクションが劣っているわけではありませんのご注意を。メインコレクションも同じ工場で製造されており、最大で8週間かけてハンドグレードコレクションとほぼ同じ工程を経て伝統的なグッドイヤーウエルト製法で仕上げられています。メインコレクションも快適さ、エレガントさ、耐久性に優れた高品質な英国靴であることは間違いありません。ハンドグレードコレクションはそれよりもさらに上質なものを求めて伝統的で繊細なタッチを加えている、ということです。